諸事雑用に追われる人間など関係なく、季節はどんどん過ぎていき、バンコクは一年で一番暑い真夏を迎えようとしています。
三日前、庭に咲き乱れるブーゲンビリアの木の下で、今年初めてのセミが鳴きました。日本のセミとは違い、タイのセミは日の高いうちはなりを潜め、朝日が昇る頃と火が沈む頃にだけ鳴きます。熱帯の華やかなイメージとは異なり、日本のセミよりひとまわり小さな体で、ひっそりしっとりと鳴きます。
「小さなセミ・薄明かり・ブーゲンビリア」が、私の中でタイの真夏のイメージになりました。
山梨は今朝、雪が降っていました。
結構積もったそうですが、立春を過ぎて降る雪はもう春の雪でしょうか。午後になると、もう溶け始めてきたようです。
明日から3月。春の足音がきこえます。
さて、久しぶりにフジファブリックの曲紹介と致しましょう。
今日の一曲は「サボテンレコード」。
私の大好きな曲のひとつです。
最初に聞いた時の衝撃は、今も忘れません。
なんといっても、フジファブリックは好きな曲を選ぶのが本当に難しい!
季節や気分によって好きな曲が変わるのは珍しくないのでしょうが、B面を含め、どの曲をとっても甲乙つけ難いため、「一番好きな曲」を選ぶのは非常に難しく、結局皆「好きな曲」になってしまう不思議なバンド、フジファブリック。
その中でも大好きな一曲です。
なんともセピアな雰囲気に包まれています。
フジファブリック独特のキーボードサウンドが光り、静かに聞こえてくるピアノとオルガンの音が、曲全体にまるでセピア色のスプレーをかけたように仕上がっていると思います。
「陽炎」でもなんともいえないセピアな雰囲気を醸し出すこのピアノとオルガンの音ですが、ダサくならず効果的に使うのは、きっと技術がいるのでしょうね。
FAB BOOKの中で、志村君は「サビのメロディは気に入ってて、そこにどうもっていくかっていうことで悩んでました」とコメントしていますが、サビにむかってだんだんリズムが早くなり、サビで「ハネハネビート」(Fujifabricバンドスコア、志村君解説)になります。
その後、歌詞の中にある時計の「チクチク タク」のような落ち着いた8ビートに戻る。
その戻り方がいかにもフジらしく、フジファブリックの魅力溢れるリズムと流れになっていると思います。
「サボテン持って レコード持って
やりかけだったパズルは捨て
車に乗って 夕日に沿って
知る人もいないとこに着くまで」
最後にくるこのパートで歌詞の情景が鮮やかに目に浮かぶのも、「チクチク タク」と「ハネハネビート」の効果だからなのでしょうか。
私は音楽の専門家ではないので偉そうなことはいえませんが、素人にもこのように思わせる名曲です。
歌詞についての詳しい解説や感想は、志村君の望む歌詞の柔軟性(聴き手によって、想像をふくらませ、どのようにもとらえることができるよう、志村君は意図的に限定的な言葉を避けていた)を妨げるので避けたいと思いますが、外国にいるファンのために一つだけ注釈をさせて下さい。
それは歌詞の中に、日本人にとってセピアな外国の雰囲気を感じさせる単語が散りばめられているということです。
まず曲名の「サボテンレコード」。
サボテンは原産が南北アメリカ大陸であり、日本には16世紀後半頃に南蛮人によって持ち込まれたといわれています。もともと日本土着の植物ではないためか、今でも「異国」の香りのする植物の一つです。
日本では主に観賞用として売られています。(タイを含め、諸外国では、紐サボテン属の果実、ドラゴンフルーツが時期になるとスーパーなどでも出回るため、サボテン=観賞用+食用と考える人も多いのです)
「レコード」は、音楽の販売される媒体として非常にポピュラーでしたが、CDやMP3にとってかわられた今では、レトロなものとなってしまいました。こちらも「外国」からきた古いものです。
そして「時計」。
チクチク タク チクチク タク と音がするものは、デジタル時計が流通する今、やはり異国から来た昔の音ではないでしょうか。
「ステレオのスウィッチ
入れて 30年遡り かけた音楽」
流れてきたのは、ボサノバ、ジャズと外国の音楽ばかりです。
「今夜 荷物まとめて あなたを連れて行こう」
その時に・・・
「サボテン持って レコード持って
やりかけだったパズルは捨て」ていきます。
日本では、「パズル」というと多くの場合、「ジグソーパズル」のことを意味します。
ジグソーパズルのジグソーは、英語のjigsaw(糸鋸)から由来しています。元々ジグソーパズルは木の板を糸鋸で切って作られていたために、この名前が付いたといわれ、1760年頃、イギリスで作られました。
近年、日本製のジグソーパズルも増えていて、日本のアニメや風景が絵柄のものなども登場し、日本でも年齢を問わず広く遊ばれる玩具となりましたが、一昔前までは輸入品が主でした。そのため、今でも「外国」のイメージが伴います。
これらの単語が絶妙のタイミングと適当な数で、ちょこちょこと歌詞に出てきては、ピアノやオルガンの音にのってセピア色の曲を作り上げています。
次回は、フジフジ富士Qで片寄さんの歌った「サボテンレコード」、そして1stアルバム「Fujifabric」について詳しくみてみたいと思います。
フジファブリック 「サボテンレコード」お聴き下さい。