Sunday, 9 November 2025

令和8年度改訂 高等学校用教科書 音楽Ⅰ 「MOUSA 1」に、フジファブリック「若者のすべて」が三期継続採用決定:第二回目記事

 2000年代後半以降、文部科学省は「生徒の主体的な音楽活動の促進」「多様な音楽文化への理解」を重視するようになりました。

この流れの中で、子供たちが日常的に親しんでいる音楽を教材に取り入れる動きが強まりました。

「MOUSA」の版元編集者である今井康人さんは、インタビューで小中学校の音楽の教科書では、ロックやポップスは登場しないが、高校の場合、音楽の授業を受ける機会はこれで最後になるので、世の中に旅立っていく高校生にとって、より身近に感じる音楽を題材にするという傾向があると仰っています。Real Sound 「米津玄師「Lemon」、フジファブリック「若者のすべて」なぜ高校教科書に採用?版元編集者に聞くポップスの選定基準


ここからは、「なぜ教科書に選ばれることが、高く評価されるべき事象なのか。」について、詳しく見ていきたいと思います。

1.教育的適正    

前回の記事でもご紹介したように、歌詞の内容が学校教育にふさわしいかどうかが、大きな焦点となります。暴力、差別、性的表現など、教育上ふさわしくない歌詞は、この時点ではじかれます。

「若者のすべて」の場合、ロックでありながらも文学的な表現を得意とする志村君の歌詞は、青少年の育成という観点からも、高く評価されたというわけなのです。

2.発達段階への適合 

音域・リズム・メロディーが生徒達にとって歌いやすいものかどうかも問われます。これは、音楽という教科の基本的な指針です。

またリズム・ハーモニーもわかりやすく、バンドアレンジや合唱構成にも転用しやすいため、「歌って感じる」「演奏して分析する」両方の教材価値が認められます。

3.文化的・時代的意義 

日本の音楽史における代表的作品であるかどうか。時代を超えて評価される要素を持っているかどうかも、重要なポイントです。

「教科書の発行には企画から実際に生徒が使うまで3年ほどの期間を要するため、今流行している、という理由だけで楽曲を掲載することはありません。選定において重要なのは楽曲のパワーです。その楽曲が生き残っていく可能性がどれだけあるか。話題性に留まらず、音楽・詩そのものが持っている力だどれだけあるか、そういったものを見極めて選んでいます」(Real Sound 「米津玄師「Lemon」、フジファブリック「若者のすべて」なぜ高校教科書に採用?版元編集者に聞くポップスの選定基準 「掲載楽曲の選定基準」より引用


また文学的な歌詞は、音楽の教材としてだけでなく、国語的、情緒教育的観点からも優れています。生徒が歌詞を分析することで、言葉とメロディーが相まって、どのように感情を生み出すかを学べる構成になっていると思います。詩と音楽の融合なのです。

「卒業後も手元に残しておきたい教科書」という「MOUSA」のテーマにぴったりです。

「MOUSA 1」

4.共感性・社会性 

高校生が感情移入できるテーマを扱っているかどうか。

「若者のすべて」の場合、青春期の淡い恋心、花火や夏の終わりなど、高校生が自分の感情や記憶と重ねて感じ取ることができます。人生観、感情表現、言葉と音の関係を考察することもできる教材として価値があるのです。

学生生活の終わりを意識し始める年代の生徒達にとって、この曲は人生の通過点を象徴する教材になります。「一瞬の季節」「失われゆくもの」「青春時代の思い出の価値」というテーマは、高校生の心に響くテーマであり、フジファブリックの3rdアルバム「TEENAGER」に込められたテーマでもありました。

まさか14年の時を経て、現役のTeenager達の教科書に載り、アルバムに込めた同じテーマを考える教材になるとは、志村君自身も想像すらしなかったのではないでしょうか。

次回に続きます。

今日の一曲は、もちろんこちらの曲。「若者のすべて」です。

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