Saturday, 10 November 2012

フジファブリックと色 「蒼い鳥」

前回からの続きです。

「蒼い鳥」の歌詞を、通して読んでみて下さい。

蒼い鳥

可能なら 深い海の中から
鼻歌 奏でてごまかしたい

可能なら さらけてしまえたらいい
蒼さに足止めをされている

今、果てしなく吹き荒れる
風の中 立ってる 時が来るのを待つ

羽ばたいて見える世界を
思い描いているよ
幾重にも 幾重にも

昨日の跡がまた増えている
にらんで踏み潰してしまった

今、果てしなく吹き荒れる
風の中 立ってる 時が来るのを待つ

ゆらめいて 消えそうな光
たぐり寄せて ここにいるよ

羽ばたいて見える世界を
思い描いているよ
幾重にも 幾重にも


こうして歌詞を改めて読んでみると、曲の始めに流れる電子チェンバロのようなアルペジオが自然と頭の中に流れ、「蒼」の深さが伝わってきます。

「深い海の中」
「蒼さに足止めをされている」
「吹き荒れる 風の中」

深みのある蒼の世界の中に、突然「ゆらめいて 消えそうな光」。
蒼を一層引き立たせる光。そんなたよりない光を、たぐり寄せてここにいる。


「悪夢探偵」という映画を、皆さんはご覧になりましたか。

「軽率に死のうとした人が、実際死のうとした瞬間にものすごく恐ろしいものが自分を殺しに来て、一生懸命逃げるはめになる」というのが、この映画のコンセプトです。


志村君はこの作品を観て、

「生きていく中一歩間違ったら陥ってしまいそうな、紙一重のことってあると思うんですけど、その紙一重の先に行ってしまった人たちの様子が観られるなって。『怖いけど覗いてみたい』的な感覚が作品になっている」

塚本晋也監督と作品の方向性を確かめあって、見事に一致し書いたという「蒼い鳥」。
元々フジファブリックの大ファンである塚本監督ですが、

「出来てきたデモテープをきいて、エンドレスでずっと聴いていたというぐらい『悪夢探偵』のムードが全体に異様なほど満ちていたので感心した」

と言っています。

映画のエンディングテーマとして書かれた、「蒼い鳥」。
チルチルとミチルの「青い鳥」と、対照的な「蒼い鳥」。

短調できて、曲の最後にポロロロンと鳴る、鍵盤の長調和音。
暗黒の蒼の中で最後、「救われた」ような気分になるのは、私だけでしょうか。

ぜひ映画をご覧になって、志村君の伝えたかった「蒼」の深さを味わってみてください。

今日の一曲は、もちろん「蒼い鳥」です。
映画の予告編の後には、ぜひ歌詞をご覧になりながら、聴くのをお勧め致します。

次回は「蒼い鳥」のカップリング曲、「東京炎上」の中の「赤」について考えてみたいと思います。


Thursday, 8 November 2012

もう11月


今年も残すところ2ヶ月をきりました。
時が経つのは、早いものです。

山梨の家族から「寒くなってきたよ」という言葉を聞くたびに・・・、今年も志村君のご命日が近づいてきたんだなぁ、と思います。
志村君の故郷、富士吉田は、寒い時期の長い土地柄です。それで冬の寒さが志村君のイメージと重なるのでしょうか。

夏に生まれて、冬に天へと帰っていった志村君。
季節の変わり目になると、ふとした瞬間に志村君の音楽が頭をよぎる時があります。


今日は「フジファブリックと色」をテーマに、考えてみたいと思います。

日本人と言うのは、とりわけ色について敏感な民族であるといわれます。
四季の移ろいを通して、多くの色に囲まれてきた日本人は、色彩を楽しむ文化を作り上げてきました。

まず伝統的な日本の着物。
布を染めるためにもっとも使われたのは、植物です。
ベニバナの鮮やかな赤。
刈安の黄色。
紫の語源となったムラサキ。

「和色」といわれる日本の伝統色は、見るものの心を躍らせます。
(「和色」に関しては、こちらのカラーチャートをご覧下さい。和色大辞典
また着物の伝統色に関しては、こちらをどうぞ。着物特有の色・日本の伝統色

平安時代の宮廷の女性たちは、季節ごとに重ね着の組み合わせを変えて、楽しみました。
今の季節ですと、紅葉を表す赤と黄色の組み合わせが好まれ、屋敷の中にいても、外へ出ても風流な装いを楽しんだのです。


「フジファブリックの音楽の中には、日本人が昔から大切にしてきた感性が、ちりばめられている」と、私は感じているのですが、色についても同じことがいえると思います。

楽曲の歌詞や曲名の中に登場する、とても印象的な色の名。

例えば、特に先月は聴いた方も多かったと思われる「赤黄色の金木犀」の「赤黄色」。
赤と黄を混ぜるとできる橙色、要するにオレンジ色のことです。
「橙色の金木犀」や「オレンジ色の金木犀」より、やはり「赤黄色」という色名を使うことにより、曲名の魅力が増しますよね。


次に、「い鳥」の「」。
常用漢字では「青」を使うことの方が多いのですが、「蒼」と「青」は何が違うのか。

「青」の漢字の下部分は元々「丹」で、青や赤の色の顔料を取るための井戸の形から形成されました。よって、ブルー、「あお」の意味に使うのです。

「蒼」は、「あお」(ブルー)に加え、「しげる」という意味も含まれるため、草が生い茂る「あお」の意味もあります。「蒼穹」は「青空」のことですが、「蒼崖(そうがい)」というと「草の生い茂る崖」のこと。
(今では、「青」にも同様の意味を含ませることもあります。)

曲名に「蒼」という漢字を抜擢したことで、鳥の色に時として茂る緑や、澄み渡る青もイメージとして加わり(「天の蒼々たるは・・・」などの蒼なので)、「青」という色に深みが増す効果があるのではと思います。

また「青い鳥」ですと、童話「青い鳥」で兄妹チルチルとミチルが探し求める幸福の「青い鳥」が曲の伝えるメッセージとは異なるので、あえてそれを避けるために、「蒼」を使ったのかなとも、私は思いました。

次回に続きます。

今日の一曲は、「蒼い鳥」。
個人的に大好きな曲です。「悪夢探偵」という映画のエンディングテーマです。
ストーリーを完結するかのように、最後、エンディングで流れてくる「蒼い鳥」。

志村君が全てのサウンドトラックを担当する映画を、一度観てみたかったな・・・。