Monday, 6 October 2014

金木犀の季節 2


皆様の地域では、台風は過ぎ去りましたか。
山梨の実家に避難準備勧告が出たのも束の間、青空が広がっているそうです。日本各地で大きな被害がでませんように・・・。

前回からの続きです。
外国人のファンに歌詞をより深く味わって頂けるよう、少しだけ注釈をつけたいと思います。

「いつの間にか地面に映った
影が伸びて解らなくなった」

「影が伸びて」という表現。

日の出・日の入り時刻と昼の長さは、基本的にその土地の経度と緯度で決まります。太陽は東から昇るので、基本的に東の方ほど日の出も日の入りも早くなります。また緯度が高い地域になると(北半球の場合は、北にいけばいくほど、南半球の場合は南にいけばいくほど)、冬至と夏至の日照時間の差が大きくなります。

日本の首都、東京はE139°45′N35°41′に位置しているため、冬至が近づけば近づくほど太陽があまり高く上らなくなり、地平線に近いところを上下するために「影が長く伸びる」という現象が起きます。特に夕方、日が沈む頃は一番長くなります。

逆に夏至が近づくと、太陽は高く上るようになり、夕方になっても影が短いままです。

緯度の高いところにある国、独特の現象ですね。
赤道に近い地域の方々には、なかなか実感がわかないかもしれません。
私のいるタイも赤道に近いため、夏至と冬至の日照時間が日本やヨーロッパの国々のようには変わらず(それなりに、日の具合で季節を感じることもあるのですが)秋の夕暮れに影が伸びるという実感はわかずにいます。


以前、Twitterで片寄明人さん(Great3)や今村圭介さん(Universal EMI)のお二人がつぶやいていらっしゃいましたが、「秋盤」はやはり本職の方たちも認める名曲だと思います。


フジファブリックの生の声を通して作品を感じて頂くため、3rdシングル「赤黄色の金木犀」(カップリング曲「虫の祭り」)がリリースされた2004年秋に発売された、様々な雑誌記事を紹介したいと思います。


まずは、『BREATH』2004年10月号から。
2003年の秋深まった頃、「赤黄色の金木犀」は志村君が「ぽっと書いた曲」としてこの世に誕生します。

「一年のなかで秋に書く曲って、センチメンタルなものが出るし、また特別なんですよね。だからそういうセンチメンタルな感情が出てる曲を書きたいなと思ってたんです。ただし、アコースティックギターでミドルテンポの曲で秋を表現した曲は出したくなく・・・、と、いいつつ、カップリングの曲はそういう曲だったりしますけど、タイトル曲はエレキギターとバンドサウンドでやれたらなあと思ってて、去年の今ごろ(2003年秋)に書いたんです。」

(「アコギでセンチメンタルな感じを出すのはイヤだってことだけど、そうじゃない方法で秋を表現するとしたら?」との質問に)

「最初は弾き語りでやってたんですけど、ふとしたときに8ビートで刻んでみたら面白かったんですよ。だからそれを広げていった感じですね。フジファブリックの曲作りっていうのは、いつも、何かをしてるとき・・・・・例えば、道を歩いているときにその風景を切りとって、一瞬のことをパーッと書く、みたいな感じなんですけど、それが今回も出ましたよね。」

(「風景というより、金木犀の香りを意識させるよね。」という言葉に)

「そうですね。この曲の雰囲気で錯覚してもらえたら嬉しいというか。例えば、外を歩いているとき、体験せずとも、この曲の風景を浮かべてもらえたらいいなと思ってて」

曲のアレンジに関しては、

「歌詞はメロディや雰囲気と連動したものが書きたいので、いつも大変なんですけど、今回は段落ごとにうまく出せた気がしますね」
「あまり連動しすぎるとはずかしというか、もっともな感じになっちゃうかもしれないし」
自分の中でギターブームがきた!という志村君。

「今回は珍しく、ギターが引っ張っていく感じの曲になりましたね。いつもはギターがなってても、肝になってたのはキーボードだったんですけど、この曲はギターが重要ですよね」
「一時期は"いらない"っていうくらい、ギターは削除したいものだったんですけど、最近は歪んだギターが再び好きになってきた感じで。この曲なんかはまさにそんな感じですね」

そして、志村君は自分の中の「秋」を語り始めます。
「秋」は、富士吉田での原風景にありました。

「東京に来てからはあんまりないんですけど、実家の山梨にいたときは秋になると、いろんなところで落ち葉を燃やしていて、街中が煙がかかっていて。そういう風景がちっちゃいころの記憶として残っていますね。ま、東京は東京で秋のにおいもありますけど、それとは別物な感じですよね」

四季盤に富士吉田の色が濃いのは、曲の中に自然と志村君の原風景を感じるからでしょうか。志村君流にいうならば、体験していなくても、金木犀が自生しない地域の皆さんにも「曲の雰囲気で『錯覚』」させる力が大きいと思います。

秋の気忙しさや物悲しさ、匂いや風景を、音楽・歌詞・声で伝えるロック。
カッコいいです!

今日も「赤黄色の金木犀」をどうぞ。
聴けば聴くほど、魅了されていきます。

次回に続きます。

Friday, 3 October 2014

金木犀の季節 1


山梨から金木犀の開花の便りが届きました。もう10月ですね。
日中は暑くもなく寒くもなく、朝晩の凜と澄み切った空気が気持ちのよい季節です。

こちらバンコクは、雨続きの日が続いています。雨季の終わりを告げる雷が鳴り響き、もうすぐ来る乾季が待ち遠しいです。

今日は「赤黄色の金木犀」についてです。

過去4年間に書いてきた「赤黄色の金木犀」に関する記事に手を加え、新たに感じたことなども織り込んでいきたいと思います。外国人のファンのために書いてある箇所も多いので、日本の皆様には少々退屈かもしれませんが、しばしお付き合いください!


金木犀は中国原産の常緑樹で、日本には江戸時代渡来しました。今では庭先などでよく見られる小高木の庭木ですが、北限は秋田県南部、南限は鹿児島県南部といわれていて北海道、青森県、岩手県北部、奄美大島、沖縄などでは、木が育っても花が咲かないそうです。
この地方にお住まいの皆さんには、なじみがないかもしれません。

幹や枝は濃い茶色、厚みのある深緑色の葉を茂らせます。
普段は特になんということもない木ですが、年に一度だけ、一週間から十日間ほどだいだい色の小さなかわいらしい花(2ミリほど)を咲かせます。

山梨では9月下旬から10月上旬にかけて、ちょうど秋がだんだんと深まり朝晩の空気が冷たくなってくる頃、満開になります。小さな花が多数集まってボンボンのように咲き、特徴的な芳香たるや言葉では表現できないほどです。


中国本土では「桂花」と呼ばれ、乾燥させた花を茶、酒、菓子に入れて、香りを楽しむ花として知られているのも理解できます。

独特の甘い香りが道に漂い、金木犀の木の所在を、この季節になって初めて知ることも少なくありません。

開花して満開になったのも束の間、あの小さな花をちらちらと落とし早々に散ってしまうのも金木犀の特徴ひとつです。
秋になると存在感を増す木のひとつが、金木犀なのです。

この記事を書くにあたって調べてみたのですが、フジファブリック以外に金木犀を曲名に使っている曲がありました!
笹川美和さんの「金木犀」、伍代夏子さんの「金木犀」です。
両曲とも感情あふれる女性ボーカル独特の歌い方と歌詞に、「秋の物悲しい空気に、女恋心をのせている曲」という印象を受けました。

興味のある方は、参考までにどうぞ。

「金木犀」 笹川美和
「金木犀」 伍代夏子


フジファブリックの「赤黄色の金木犀」についてですが、私はこの曲ほど上手に、金木犀という植物を通して深まり行く秋の心情と風景を表現した曲は、他にないと思います。

まずは、イントロで流れるギターのアルペジオ。
この曲の魅力の一つだと思います。
素早い指使いで弾くリードギターの八分音符を聴いていると、私はいつも小さな金木犀の花がちらちらと散っていくようすを思い出します。

外国のファンがより深くこの曲を楽しめるように、少しだけ歌詞の注釈を書き添えたいと思います。

「冷夏が続いたせいか今年は なんだか時が進むのが早い」

「冷夏」というのは例年に比べて気温の低い夏のことですが、冷夏が続くと、なぜ「時が進むのが早い」気がするのか。

これには日本の気候風土が関係あると思います。

日本は北東から南西に長く伸びた弧状の列島で形成されています。
春夏秋冬という四つの季節があり、春・夏・秋・冬と三ヵ月ごとに違う季節へと移り変わります。夏には太平洋から吹く季節風の影響により高温多湿となるため、他の季節との寒暖差が激しくなり、四季がよりはっきりとしています。

冷夏が続くと次にくる秋が早まり、それに伴って冬の到来が早まります。科学的根拠はわかりませんが、刻一刻と、冬に向かっていく焦りと気忙しさが増すのです。

「僕は残りの月にする事を
決めて歩くスピードを上げた」

気候風土を知ると、この歌詞への流れをより楽しんでいただけることでしょう。


サビはまた、最高に魅力的です。

「赤黄色の金木犀の香りがしてたまらなくなって
何故か無駄に胸が騒いでしまう帰り道」

笹川さんの曲も伍代さんの曲も「金木犀」という曲名に関わらず、「金木犀」という言葉をサビでは使っていませんが、フジファブリックの曲ではドラム率いる盛り上がりの末、サビにはいって真っ先に響いてくるのは曲名でもある

「あ・か・き・い・ろ・の きーんもーくせーいーの」

という言葉なのです。

金木犀のインパクトは、強烈です。

金木犀を知らない人にも、「金木犀って、どんな花?どんな香りなの?」と思わせる力強さがあります。

今日の一曲は、「赤黄色の金木犀」です。

「曲を上手に表現できない」との理由で、あまりライブでは演奏されなかったので、珍しいライブ映像です。足立さんのドラムがハンパない走りをみせた後、山内さんと志村君のギターでしっとりしめる。
ライブの醍醐味あふれる映像ですので、ぜひご覧下さい!

記事は次回に続きます。