Sunday, 23 November 2025

11月25日放送予定「マツコの知らない世界 防災無線チャイムの世界」 富士吉田市防災無線チャイム「若者のすべて」「茜色の夕日」が選ばれました

博識なことで知られるマツコ・デラックスさんの冠番組「マツコの知らない世界」。

芸能人や研究者、専門家ではなく、趣味が高じで活動を行う一般人が、没頭している大好きな「私の世界」の魅力を、独自の世界観からマツコさんに紹介、プレゼンするという番組です。

11月25日放送予定「マツコの知らない世界 泊まれる文化財・防災無線チャイムの世界」では、フジファブリック 志村正彦さんの故郷、富士吉田市の防災無線チャイムが取り上げられることとなりました。2025年現在、フジファブリック「若者のすべて」「茜色の夕日」(志村正彦さん 作詞・作曲)の二曲が、防災無線として使用されています。詳細はこちらです。

TBSテレビ「マツコの知らない世界」

TBSテレビ「マツコの知らない世界」公式X(旧Twitter)


平成28年6月13日に発表された「社会的文脈を重視した地域音環境マネジメントの方法」という研究成果書では、山梨県立大学 国際政策学部 准教授 箕浦一哉さんが、富士吉田市の行政防災無線のことを取り上げていらっしゃいます。

「夕方5時のチャイム」の公共性

「社会的文脈を重視した地域音環境マネジメントの方法」研究成果書


(「科学研究費助成事業 研究結果報告書 課題番号24510054 P3より引用)

この研究結果報告書には、富士吉田市で流れる「若者のすべて」「茜色の夕日」は、時報としての役割だけではなく、市民にとって「共有された物語を想起させる標識音」であり、「地域資源」となったと書かれています。また「富士吉田市という共同体だけでなく、志村正彦さんのファンという共同体を象徴する音という意味をもつことになった」とも書かれています。

2012年当時、富士吉田市役所職員として市役所に勤務し、若手職員プロジェクトの一員でもあった渡辺雅人隊長は、志村正彦さんを応援する富士吉田有志の会「路地裏の僕たち」の隊長も兼任する中で、2010年頃から届いていた市民からの幾つかの投書に心を動かされたと言います。

「志村正彦さんの曲を、防災無線に採用してほしい。」

早速、実現に向けて、雅人隊長は動き出しました。立ち上げ当初から、雅人隊長は一貫して同じことを言い続けています。

「富士吉田市の著名人として活躍し,平成 21 年 12 月 24 日 に 29 歳の若さで逝去したミュージシャン「フジファブリッ ク」志村正彦の音楽を,故郷富士吉田で周知することによ り,今まで知らなかった多くの市民に知っていただくこと で,地元に対する郷土愛や誇りを再認識していただき,子 供たちや若者の夢や希望への後押しになればと考えます。 また,志村正彦と故郷富士吉田を愛し続けてくれている, 全国のファンの人達への恩返しとして,命日である 12 月 24 日を中心に,路地裏の僕たちからのささやかなプレゼン トとして,故郷富士吉田から夕方 5 時のチャイムを響かせ ます。」

箕浦先生の論文にあるように、

ここに認められる企画の目的は,(1) 志村正彦氏の音楽 の周知,(2) 地域の魅力の再認識,(3) ファンへの恩返し, の 3 点である。 
(「夕方5時のチャイム」の公共性:山梨県富士吉田市の取り組みから The legitimacy of clock chimes sounded through public announcement system: A case in Fujiyoshida, Japan ●箕浦 一哉 Kazuya MINOURA 山梨県立大学/フローニンゲン大学 Yamanashi Prefectural University / University of Groningen:p5より引用) 

以前、このブログでもご紹介したこの論文でしたが、発表された2013年から12年の年月が流れました。改めて読んでみると、当時とはまた違う気持ちになります。


あの当時、フジファブリックの曲は、まだ今ほどの認知度はありませんでした。そういう中で、取り組みを始めて下さった雅人隊長の勇気と熱意とやさしさは、本当にありがたかったです。そして雅人隊長が選曲した「若者すべて」は、音楽の教科書に3期続けて掲載される名曲として、世の中に知られることとなりました。

13年を経て、今、また富士吉田の防災無線が、ゴールデンタイムの花形番組に取り上げられます。雅人隊長の情熱とやさしさがあったからこそ、今があると思っています。雅人隊長、感謝の気持ちは言葉では言い尽くせません。本当にありがとうございます。またその後、引き継いで下さっている市役所職員の方々、いつもありがとうございます。ファンとして心から感謝の気持ちを送らせて頂きたいと思います。

チャイムが街に流れるとき、この鐘の音が富士山の頂上を通り越して天を昇り、志村君に届きますようにと、祈らずにはいられません。

今年もあと一か月足らずで、チャイムの季節となります。

12月21日から27日までの一週間、期間限定で、夕方5時に「茜色の夕日」が富士吉田市に響き渡ります。ファンの皆様、特別な日の特別なチャイムを、志村君が生まれ育った街に、聞きにいらっしゃいませんか。富士吉田市民の皆様と、志村正彦さんのファンの皆様がチャイムを通して繋がる時間に、きっと天にいる志村君も繋がってくれていると信じています。

今日の一曲は、「茜色の夕日」です。急に寒くなりました。とっぷりと暮れる夕日の色は、一層鮮やかに見える事でしょう。

Sunday, 9 November 2025

令和8年度改訂 高等学校用教科書 音楽Ⅰ 「MOUSA 1」に、フジファブリック「若者のすべて」が三期継続採用決定:第二回目記事

 2000年代後半以降、文部科学省は「生徒の主体的な音楽活動の促進」「多様な音楽文化への理解」を重視するようになりました。

この流れの中で、子供たちが日常的に親しんでいる音楽を教材に取り入れる動きが強まりました。

「MOUSA」の版元編集者である今井康人さんは、インタビューで小中学校の音楽の教科書では、ロックやポップスは登場しないが、高校の場合、音楽の授業を受ける機会はこれで最後になるので、世の中に旅立っていく高校生にとって、より身近に感じる音楽を題材にするという傾向があると仰っています。Real Sound 「米津玄師「Lemon」、フジファブリック「若者のすべて」なぜ高校教科書に採用?版元編集者に聞くポップスの選定基準


ここからは、「なぜ教科書に選ばれることが、高く評価されるべき事象なのか。」について、詳しく見ていきたいと思います。

1.教育的適正    

前回の記事でもご紹介したように、歌詞の内容が学校教育にふさわしいかどうかが、大きな焦点となります。暴力、差別、性的表現など、教育上ふさわしくない歌詞は、この時点ではじかれます。

「若者のすべて」の場合、ロックでありながらも文学的な表現を得意とする志村君の歌詞は、青少年の育成という観点からも、高く評価されたというわけなのです。

2.発達段階への適合 

音域・リズム・メロディーが生徒達にとって歌いやすいものかどうかも問われます。これは、音楽という教科の基本的な指針です。

またリズム・ハーモニーもわかりやすく、バンドアレンジや合唱構成にも転用しやすいため、「歌って感じる」「演奏して分析する」両方の教材価値が認められます。

3.文化的・時代的意義 

日本の音楽史における代表的作品であるかどうか。時代を超えて評価される要素を持っているかどうかも、重要なポイントです。

「教科書の発行には企画から実際に生徒が使うまで3年ほどの期間を要するため、今流行している、という理由だけで楽曲を掲載することはありません。選定において重要なのは楽曲のパワーです。その楽曲が生き残っていく可能性がどれだけあるか。話題性に留まらず、音楽・詩そのものが持っている力がどれだけあるか、そういったものを見極めて選んでいます」(Real Sound 「米津玄師「Lemon」、フジファブリック「若者のすべて」なぜ高校教科書に採用?版元編集者に聞くポップスの選定基準 「掲載楽曲の選定基準」より引用


また文学的な歌詞は、音楽の教材としてだけでなく、国語的、情緒教育的観点からも優れています。生徒が歌詞を分析することで、言葉とメロディーが相まって、どのように感情を生み出すかを学べる構成になっていると思います。詩と音楽の融合なのです。

「卒業後も手元に残しておきたい教科書」という「MOUSA」のテーマにぴったりです。

「MOUSA 1」

4.共感性・社会性 

高校生が感情移入できるテーマを扱っているかどうか。

「若者のすべて」の場合、青春期の淡い恋心、花火や夏の終わりなど、高校生が自分の感情や記憶と重ねて感じ取ることができます。人生観、感情表現、言葉と音の関係を考察することもできる教材として価値があるのです。

学生生活の終わりを意識し始める年代の生徒達にとって、この曲は人生の通過点を象徴する教材になります。「一瞬の季節」「失われゆくもの」「青春時代の思い出の価値」というテーマは、高校生の心に響くテーマであり、フジファブリックの3rdアルバム「TEENAGER」に込められたテーマでもありました。

まさか14年の時を経て、現役のTeenager達の教科書に載り、アルバムに込めた同じテーマを考える教材になるとは、志村君自身も想像すらしなかったのではないでしょうか。

次回に続きます。

今日の一曲は、もちろんこちらの曲。「若者のすべて」です。

Sunday, 2 November 2025

令和8年度改訂 高等学校用教科書 音楽Ⅰ 「MOUSA 1」に、フジファブリック「若者のすべて」が三期継続採用決定

 令和4年度版(2022年発行)の高等学校用教科書音楽1「MOUSA1」に初めて採用されたフジファブリックの「若者のすべて」(志村正彦さん作詞作曲)。現在、全国の高校で使用されている令和6年度版、また来年度の令和8年度版にも継続採用されることが決定いたしました。MOUSA 1 令和8年度改訂版

3期にわたり継続採用されることが、なぜ特筆すべきことなのか。

教科書採用基準の厳しさ、教科書選定の手順などを詳しく見ていきながら、「若者のすべて」が教科書に採用されたことがいかに名誉なことなのかを探っていきたいと思います。

三期継続採用を記念して、今日からいくつかの記事に分け、詳しく書いていきたいと思います。


教科書の改訂は、何年ごとに行われるの?

教科書の改訂は、おおむね2~4年ごとに行われます。その都度、教科書選定委員がすでに掲載されている曲や新しく作成された候補曲のリストを見直し、厳正に選定していきます。そのため同じ曲が三回続けて採用されるのは非常に珍しいケースです。


「若者のすべて」は、なぜ三期継続採用されたの?

まず教材としての完成度があげられます(後日、改めて詳しく説明します。)。

「MOUSA」は、実際に高校で指導されている先生方が編集しているので、生徒や教師の側になって内容を熟考し、教科書作りをしているのが特色です。三期継続採用された大きな理由の一つは、教師と生徒達からの人気と指示、信頼だと思われます。


音楽の教科書に掲載する曲の選定は、どのような手順で行われるの?

1 文部科学省の学習指導要領に基づく枠組み

まず、出版社や選定委員会は、「学習指導要領」で定められている目標と内容を確認するところから始めます。


2 楽曲を審査

選定委員(音楽教育の専門家、教員代表、研究者など)は、以下の観点から曲を審査します。

                    ・高校生に合った表現内容であるか

                    ・高校生に合った音域であるか

                    ・音域に無理がなく、歌いやすいかどうか

                    ・音楽的学びを深める構成になっているか

                    ・歌詞の内容が教育的・倫理的にふさわしいか

                    ・高校生が共感し、興味をもてるか

                    ・多様な文化や価値観を尊重しているか

ここで、児童生徒のアンケートや現場教員の意見を参考にすることもあります。

3 著作権者との交渉

楽曲の著作権者に連絡を取り、交渉、手続きが行われます。「若者のすべて」の場合には、志村正彦さんの著作権を継承したご家族が、教科書への掲載を快諾したことになります。


4 著者と編集部が試演

                音域や演奏のしやすさなどを検討する

5 文部科学省による検定

完成した教科書案は、文部科学省の教科用図書検定を受けます。

検定では:

                ・学習指導要領との整合性

                ・教育的・文化的妥当性

                ・著作権処理の適正さ

など、色々な観点から厳正な審査が行われます。

合格後、正式に採用候補となり、各自治体の教育委員会で採択・使用されます。


次回は、「若者のすべて」がなぜ継続採用されているのかを、詳しくみていきます。

今日の一曲は「若者のすべて」です。今年は、この曲への注目度が、過去最高に上昇した気がします。どこかで流れていたのを、偶然聞いた方も多かったのではないでしょうか。