教科書シリーズ最終回の今日は、「『若者のすべて』が実際、どのように教室で教えられているのか」。これはファンの皆様も、大変興味があるのではないかと思います。
まず、音楽の教科書「Mousa 1」の出版元、教育芸術社の販売する「指導書 教授資料」を見てみましょう。
日本には、国が定める学習指導要領と呼ばれるものがあります。文部科学省が全国の小・中・高校で、教育課程(ナショナル・カリキュラム)を編成する際の基準となるものです。要するに「『どの学年』が、『どの教科』で、『何』を学習するのか」を国が定めることにより、日本全国、どこの町や村で学校に通っていても、一定の教育水準に達することができるように作られています。
この学習指導要領に沿って、「各単元をどのように教えるか」を具体的に設計する授業の計画書(レッスンプラン)を「学習指導案」と言います。これは教師が独自のものを作成することもありますし、ある程度、各学校でひな型がある場合もあります。
「Mousa 1」の場合、学習指導案を含めた指導書と教授資料を、教科書の出版元が販売しています。教育芸術社 「指導書 教授資料」
こちらを見ると、「年間指導計画例に対応した題材ごとの評価基準例」というのがあります。「若者のすべて」を、生徒たちが学習した際に、何を評価基準とするかの例が、ここに書いてあるわけですが、とても興味があります。そのほかには:
「学習指導案 例」
「学習指導の流れ 例」
「指導のポイント」
「伴奏のポイント」
「楽曲について」
「ワークシート」
これらを元に、各教師が自分の授業計画書を設計していきます。想像するだけでわくわくしてしまいます。
全国の音楽教師が、「若者のすべて」を教材として、どのような指導をなさっているのか。一度でいいから授業に参加してみたいです。
元音楽教員であるコギトさんの記事をご紹介します。
「ムジクラス」【高校音楽】授業のコツとポイントまとめ「ポピュラーソングを取り上げると、生徒の反応が良いのがメリット」と書いてあります。文部省唱歌やクラシック音楽など、あまりなじみのない音楽を鑑賞する中で、「この曲知ってる!」という楽曲を、学校の教室で友達と一緒に習うのは、違う楽しみがあると思います。
また「原曲を聴き、ドラムに注目させ、どのようなリズムになっていてどんな曲調になっているか聴き取らせてみましょう。」とあります。「原曲」が存在するということは、「唯一ではないけれど、一つの表現の答えがある」ということだと、コギトさんは言っています。
フジファブリックが提示する、「一つの表現」
高校生の目には、どう映るのでしょう。
全国の高校生が、「若者のすべて」をYouTubeやCDなどの音源から、音楽の授業で聴いているという事実だけでも、感動してします。
東京都立秋留台高等学校の学習指導案が公開になっているのでご紹介いたします。
2学期の11・12月に「若者のすべて」を学習することになっているのが確認できます。「具体的な指導目標」に、「各曲の雰囲気を感じ取り、リズムやハーモニーを聞きながら演奏する」とあります。
また、「評価の方法」の項目には、
「観察」「実技テスト」「グループ活動」「振り返りシート」
と書いてあります。
どんな「観察」をして、どんな「実技テスト」があり、どんな「グループ活動」をして、「振り返りシート」で学習したことをどのようにまとめるのでしょうか。
教科書編修趣意書を、文部科学省が一般公開しているので、ここでご紹介します。
これは「Mousa 1」の出版元である教育芸術社が、学習指導要領に基づき編修した時に、「これが私達の教科書の特色です!」とアピールするために、文部科学省に提出した書類です。
3ページに「若者のすべて」が出てきますが、「特に意を用いた点や特色」のところに
「自然や命を大切にする心、他者を思いやる心を養うことができる教材や、道徳的観点と関連付けて取り上げることのできる教材を含めました。」
と明記されています。
教科書選定委員会の意志を反映し、大阪府立高校の学習指導案はこのような内容になっています。
「親しみやすいポップスや効果 の旋律・リズムを知覚し特質や雰 囲気を感受しながら自己のイメ ージを持って、表現している。」
高校生が「若者のすべて」の「(原曲の)雰囲気を感受しながら、自己のイメージを持って表現する」こと。現場の音楽教師たちは、どのような指導をしているのでしょうか。
「日常の一コマに寄り添う音楽を」と願っていた志村君。
教科書に楽曲が掲載されるということは、この6年間、日本全国の高校生が「若者のすべて」を歌い、教材として学習し、歌詞を分析し、実技テストを受けることで、高校生たちの心にこの曲が刻まれます。まさにTeenager達の心に、志村君の書いた楽曲が残るのです。
青春時代に聞いた曲は、その後、さまざまな場面で頭に浮かぶ「思い出の曲」と成長していきます。今の高校生が大人になった時、「高校生の時に歌った『若者のすべて』、なつかしいね。」という日がいつか来るのです。そして一生、その子たちの人生に寄り添っていきます。
これこそ、ミュージシャン冥利に尽きることではないでしょうか。
3回にわたりおおくりした教科書シリーズは、今日で終了致します。
読んで頂きありがとうございました。「若者のすべて」という楽曲のもつ力、教科書に選定されることがいかにすごいことなのか。自分の魂のかけらを曲の中に埋め込んでいった志村正彦さんの素晴らしさ。
ファンの皆様に届いてくれたら幸いです。
富士吉田の防災無線チャイムのお知らせも、近日中に記事にいたします。
今日の一曲は「若者のすべて」です。音楽の先生がた、ぜひカップリング曲「セレナーデ」も一緒に聞いて頂きたいです。まさに「自然や命を大切にする心、他者を思いやる心を養うことができる教材や、道徳的観点と関連付けて取り上げることのできる教材」になりうる曲なのです。